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(らしさ+本音=自分の色)「true colors」をぶつけて グローバルを舞台に奮闘する関西ペイント社員のEPISODE Story
谷口 功
海外技術(インド)
2002年入社/工学研究科 応用化学専攻

関西ペイントグループのグローバル戦略の最重要拠点の一つとして、インド南部・バンガロールに新たに建設中(2013年末に完成予定)のホスール工場へ、2012年4月から技術マネジャーとして駐在赴任。入社後、日本国内では9年間、自動車塗料分野の塗装ラインサポート、塗料開発などを担当した。
EPISODE Story01
家族を残して単身で海外へ。つらいし、寂しくないわけないじゃないか。

ビーッ、プップー、ブー。
息つく暇もないほどに、鳴りやまないクラクション。次から次へと姿を表す四輪・三輪自動車にバイク、そして夥しい数の人の群れ…。谷口は驚きを通り越して、ただ唖然とするだけだった。

『大変なところへ、来ちゃったな』

運転手付き専用車の後部座席で、気が付けばそう心の中で呟く自分がいた。日本を離れて半年、ムンバイの現地法人でインド暮らしの助走期間があったとはいえ、いざインド南部のバンガロールに到着した瞬間から、いきなりカルチャーショックの洗礼を受けてしまった。芽生えた弱気が表情に表れるのか、運転手が心配そうにバックミラーで見つめている。
「谷口くん、インドへ行って欲しいんだ」
信頼する上司に言われた時、正直に言えば迷った。結婚して幼い子どもが3人、一番下の子はまだ生まれたばかりだ。愛する家族と離れるのはつらいし、寂しくないわけがない。一方で、関西ペイントグループが推進するグローバル戦略の中でも、インドは最重要エリアの一つ。そこへの赴任は、技術者として自動車塗料ひと筋にやってきた自分が期待されている、ということでもある。

『選ばれたからには、やるしかないな。やる以上はそれなりではなく、自分ならではのことを、思い切りやってみせる』

日本にいる家族に想いを残しながらも、腹を決めたらまっすぐに前だけを見つめて進んでいく――。後ろ向きと前向き、対極の想いが交錯する葛藤を経て、一つの決意を胸に秘め、谷口はバンガロール市街の喧騒のまっ只中にいた。

選ばれたからには、期待に応えて、思い切りやってやる。
EPISODE Story02
言いたいことが伝わらないし、すべてが思い通りにいかない。もう、日本に帰りたいなあ。

一年中穏やかな気候に恵まれたインド有数の大都市・バンガロール。市内の自宅から、高層ビルとトタン屋根の民家が混在する街中を抜け、車で40分。関西ペイントグループが南インド開拓の拠点と位置づける、ホスール工場が誕生しようとしていた。
この地に赴任した谷口のミッションは、三つある。お客様である現地の自動車・二輪メーカーの塗装工程の改善など生産ラインサポート、新しいカラーや材質の塗料開発、そしてインド向けの製品設計だ。

『どれも入社以来、日本で経験を重ねてきた仕事。大丈夫、お客様と場所が変わるだけだ』

そう自らを鼓舞し、技術マネジャーとして工場のローカルスタッフと対面した谷口。だが、淡い期待はすぐに打ち砕かれた。最も苦労したのは、時間が守られないことだ。すべてにルーズで、待たされてイライラすると、コミュニケーションもうまくいかなくなる。異国生活に慣れないこともあって、仕事の成果も精神的にも悪循環を繰り返し、楽しくない。休日、スカイプで日本の子どもたちの笑顔を見ると、一気に望郷の念が湧き上がってきた。

『言いたいことが伝わらないし、思い通りの仕事ができない。もう、日本に帰りたいなあ』

それでも何とかしようとあがき続ける谷口にある時、変化が訪れる。決して得意とは言えない英語だが、懸命に伝えようと努力していたら、徐々に互いの意思疎通ができているのがわかるようになった。

『中途半端な英語でも、heart(想い)があればわかり合えるんだ。ミッションをやり遂げずして、決して帰らないぞ』

それは谷口にとって、現地にいる「たった一人の日本人」から「ホスール工場の一人」へと、意識が大きく変わった瞬間だった。

英語は中途半端でも、想いを伝えるコミュニケーションでわかり合える。やり遂げずして、帰れるものか。
EPISODE Story03
土足で足を踏み入れるようなことをせず、少しは遠慮してくれよ。

広大なホスール工場を巡回する谷口の姿を見つけると、あちこちで一人またひとりと、インド人のローカルスタッフが笑顔で近づいてくる。その瞬間、心に湧き上がる一つの想いがある。

『みんな頑張っているし、俺も負けてはいられない。一緒につくるこの新工場を、絶対に成功させてみせる』

そのために、自分にできることは何か。心がけているのは、積極的に「Thank you!」(褒める)と「No!」(叱る)を表現すること。日本人とは違い、インド人は「自分はこうしたい」と遠慮なく意見をぶつけてくる。当初、曖昧な受け応えをしていた谷口は、頑固で諦めることを知らないストレートな主張の連続に、やりきれない気持ちになっていた。

『人の心に、土足で勝手に入ってくるな。少しは遠慮や我慢をしたら、どうなんだ!』

だがそのうちに、オブラートに包まず本音を曝け出す方が、ものづくりにはメリットが大きい、と感じるようになっていく。「こういう設計だと、現場はつくりにくい」とはっきり改善点を指摘される方が、次の開発設計に活かしやすい。イキイキとスムーズに仕事を進めるには、むしろ反応がないことの方がよくないことだと、気づかされた。
ストレート過ぎて、「違う、やっぱり俺はこう思う」と畳みかけてくる人もいる。それでも納得したら、ちゃんと行動してくれる。考えてみれば、鳴り響くクラクションも「俺はここにいるぞ!」という、当たり前のアピールなのかもしれない。現地に立ってみて「インドで人を動かすコツ」を教わった谷口は、これまで以上に「Thank you!」「No!」を明快に表現するようになっている。

「遠慮なし」のストレートな表現の方が、 実はイキイキとスムーズに、仕事ができるんだ。
EPISODE Story04
お客様の評価に「グレーゾーン」はない。 肩書きや以心伝心も通用しないし、やりにくいよ。

お客様の自動車工場に新カラーを開発納入し、塗膜ができて塗装ラインが無事に動き出す。そんな日本では当たり前だったことも、インドではスムーズにいかないことが少なくない。その理由は意識の違いがあると、谷口は感じていた。

『うまくいくはず…、がそうならない時に、なぜかを追究していく経験が浅い。基礎から根づかせていくしかないな』

ラボで新カラーを開発した段階では問題ないのに、塗装ラインではうまく色が出ないこともあった。そんな時、谷口は時間をかけてでもお客様のローカルスタッフに「この条件なら、こういう設定にしてください。なぜかと言うと…」と、指示内容の背景まで事細かく、丁寧に説明し続けた。

『つくった塗料は、お客様が評価してこそ価値がある。認めてもらうためには、技術者の存在感は欠かせない』

日本にいた頃から抱く技術者としての谷口の誇りが、異国の地でも変わることなく発揮されていた。また、インドならではの事情もある。お客様の評価に、名刺の肩書きや以心伝心は通用しない。「谷口は、この塗料は、わが社に必要な存在かどうか」。それだけが判断基準になるからだ。

『グレーゾーンがなく、融通も利かない。それなら、自分が存在価値のある人になればいい。インドが求めるのはグローバル品質の高い技術力だから、それを伝授していこう』

現地には、そこにふさわしいやり方がある。改めてそう感じながら、日本での9年間に身につけたことが世界の舞台でこれほど役立つとは、と素直に実感する自分がいた。

人物や製品そのものが評価されるからこそ、技術者である自分の力で「評価される存在」になっていけばいい。
EPISODE Story05
自動車塗料分野で、シェアはダントツの№1。 だがまだ、「ブランド」にはなっていない。

自動車塗料分野では、インド国内で約65%とダントツのトップシェアを誇り、さらに需要は拡大の一途――。そう表現すると順風満帆に思えるが、現地に足を踏み入れて1年が過ぎ、谷口はさらに高い視点に立った想いを抱くようになっていた。

『確かに、トップシェアはこれからも続いていく。でも、日系メーカー以外には、まだ開拓の余地はあるはずだ』

他社に先駆けていち早くインドへ進出し、日系メーカーを中心にシェアを拡大してきたが、一方でローカル(現地企業)やグローバル(世界規模)の自動車メーカーには、まだブランドとしての知名度は低い。ホスール工場は、単に南インド市場の開拓拠点というだけでなく、未知のお客様にも信頼されるブランドにしていく足がかりになる、と考えていた。
そのために谷口は、ローカルスタッフの「こうしたい」という声を頭ごなしに否定することはない。いつも「じゃあ、やってみろ!」と挑戦させるのは、日本でそうやって自分をのびのびと育ててもらったいい思い出があるからだ。もう一つ、谷口に芽生えた信念がある。

『すでにアフリカにも、他企業に先がけて挑戦している。ただ、世界中に拠点を持ったとしても、塗料の製品力や技術力だけでなく、ローカルスタッフの頑張りと成長なくして、成功はあり得ない。ホスールは、そのお手本になればいい』

駐在員である自分がすべてをやってしまうよりも、サポート役となって一人でも多くの技術者を育て、動かすことができたら…。工場には今、谷口が「成長したなあ」と実感し、お客様からも「彼は、いいね」と信頼されるスタッフが増えている。実はそれが、何より嬉しい出来事なのかもしれない。

ホスール工場が南インドの新たな拠点として成功し、世界中の拠点の「良きお手本」になればいい。
EPISODE Story06
責任とプレッシャーの重さに、挫折しそうになることもある。海外で働くことを迷うなら、行かなくていい。

バンガロールの街と人、ホスール工場の仲間と色とりどりの塗料缶に囲まれて1年。谷口は、自分なりに成長と手応えを感じている。
生産や営業、エンジニアなど、仕事を通して出会う人の数も種類も増え、しかも日本代表として、すべてを独りでやらなければならない。だが日本では味わえない経験を重ねたおかげで、一つの仕事をいろんな立場の視点で見るようにもなった。また、家や店舗、車に人、街中の景色がとても彩り豊かなインドだからこそ、この色彩感覚を満たす塗料を開発すれば、もっと可能性を高めることができると確信している。

『技術ひと筋でやってきたけど、それだけではダメだと気づいた。視野が広がって、いろんな想いに気づくようになった。ただ、ホスールの塗料が認められるまでは帰らないという明確な目標がなければ、責任の重さとプレッシャーに挫折していたかも。何とかなるし、何とかしてみせると、自分をごまかさずに逃げないタフさが磨かれたかな』

クラクションの騒音も気にならず、BGMに感じるようになった谷口に、運転手も今は安心の笑顔で話しかけてくる。ホスール工場を成功させた後も、世界中のどこかで同じように「自動車塗料のプロフェッショナル」として、現地のローカルスタッフとともに大勝負に挑むつもりだ。さらに「塗る役立ちの先にある何か」を発見したいと語る谷口は、後に続いて海外へ飛び出していく人に、刺激的なメッセージを贈る。

「行きたいと願うタフな人は、ぜひ行け。迷っている人は、行かなくていい。なぜ、何に迷うのか。キャリアも価値観も、日本では得られないことばかりで、絶対にこれからの仕事と人生に大きなプラスの財産になる。迷っても、行け。そう言いたいですね」

迷っても、行け。日本では経験できないことが、仕事と人生の大きな財産になる。